「人生100年時代」が話題の近年、生涯に渡り教育と就労を繰り返し継続を行う「リカレント教育」が話題になりつつあります。とはいえ、一部の企業や大学にしか浸透していないために詳しく知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、リカレント教育について解説します。
- リカレント教育とは
- リカレント教育の概要|対象者・学べる内容・注目を集める背景
- リカレント教育のメリット・デメリット
- リカレント教育|学べる大学
- リカレント教育の学び方と補助金と制度
リカレント教育は、自分のキャリアにおいて「新しい知識を身につけたい人」「スキルの学び直しをしたい人」に、とってもおすすめの学び方ですよ。
リカレント教育とは
リカレント教育とは、学校教育を終えても尚「再び、学び直しをすること」を指しています。
教育と就労を何度も繰り返し続けることを意味しています。
【リカレント教育の概念】提唱した人|経済学者ゴスタ・レーン
リカレント教育を提唱したのは、スウェーデンの経済学者ゴスタ・レーン。
ゴスタ・レーンが述べるリカレント教育の概念は以下の通り。
義務教育(基礎教育)を終えて社会人になってからも、時期や時期や年齢に関係なく「キャリアに活かすための教育」を受けること。
生涯において長期間のスパンで「学びと就労のサイクル」を、繰り返す教育制度。
その後、1969年5月に「ヨーロッパ文部大臣会議」にて、スウェーデンの文部大臣パルメ氏がスピーチの中でリカレント教育を伝え、世界的に注目を浴びるようになり、1970年代には世界各国に普及していったと言われています。
リカレント教育によって期待できること
リカレント教育によって期待されることは「キャリアアップ」や「スキルアップ」です。
とくに、一度社会人を経験した以下ような方々に「リカレント教育」が有効とされています。
- 学歴がない
- キャリアがない
- 出産や育児のキャリアブランクがある など
キャリアへの劣等感や不安から、あきらめを感じていた人たちが「リカレント教育」により、自分のキャリアに自身を持つことが出来るでしょう。実際に、ビジネスライフがより良い方向へ向かう可能性も大いにあります。
欧米・北欧・諸外国と日本のリカレント教育の違い
諸外国(特に欧米や北欧)で「リカレント教育」といえば一般的なことで、かなり前から浸透しています。
義務教育や高等教育・大学・大学院を経て就労した後に、一度仕事を辞めて教育機関で学び直し、キャリアを再開させるリカレント教育。一度仕事から離れ、ビジネスに直結した知識や技術の習得に集中することで、再就職したときに能力を発揮することとなります。
本来のあるべき姿のである諸外国のリカレント教育は、いったん仕事から離れ学業に専念することを指します。
内容の多様性がメリットとも言えますが、一方では在り方の論点が多岐に渡り、人によって定義が違うために対象の取りまとめが難しい状況です。まだ途上途中で発展の見込みが大きいとも言えますね。
日本では、まだまだ途上中のリカレント教育ですが、目的は諸外国と同じで「ビジネスに直結した知識や技術習得」によるキャリアアップです。今後も日本のリカレント教育が、整えられていくことに期待がかかります。
リカレント教育の概要|対象者・学べる内容・注目を集める背景
リカレント教育の概要について、詳しく解説します。
リカレント教育:対象者
リカレント教育の対象者は義務教育、高等学校・専門学校・大学・大学院の学習過程を終えた「社会人」です。
リカレント教育の定義が「学び直し」のために、既に社会人として働いている人の他にも、出産や育児・その他の諸事情によって、キャリアブランク中の社会人の方も対象となります。
年齢の制限もありません。近年では、定年退職後にリカレント教育に取り組む方も増えているようです。
リカレント教育:学ぶ内容
リカレント教育で学ぶ内容は基本として自分で選択できますが、主に自身のスキル向上に直結した「学び」を選ぶ人が多いようです。
例えば、
- 介護や福祉の分野で働いている人・・・医療知識や社会的背景の学び直し
- IT分野で働いている人…IT認定資格の取得 など
今の自分に足りないビジネススキルを学び直すことで、今後のキャリアアップに期待してリカレント教育に取り組みます。
リカレント教育:注目される背景
日本でもリカレント教育が注目され始めた背景には、次のようなことがあげられます。
- 終身雇用の崩壊による、実力主義(個人のスキルを高めるため)
- 「人生100年時代」突入による(寿命が延びたことによる)、再雇用・再就職・仕事復帰する人の増加
- 「AI」や「IoT」による、技術進化(求められるスキルや市場の変化)
社会背景や急速な技術革新により、従来の「終身雇用」の在り方は通用しなくなってきました。
教育を終えた後も、学びを重ね自分自身をアップデートする必要性が求められています。「リカレント教育」が必然的に取り入れられるようになったという訳です。
リカレント教育|生涯学習との違い
リカレント教育と生涯学習は同じように捉えらえることもあり、はっきりと区別出来ていない人も多いものです。これからの日本社会において、リカレント教育が浸透することを見通し、ここでしっかりと確認しましょう。
もっとも大きな違いは、次となります。
- リカレント教育・・・仕事の役立てるためもの
- 生涯学習・・・豊かな人生を送るためのもの(趣味やボランティアも含む)
生涯学習について文部科学省は「すべての人が生涯のいつでも自由に学習機会を選んで学ぶことができ、学習成果が適切に評価される生涯学習社会の実現を目指すべきである」と提唱しています。
一方リカレント教育は「社会人になってからも、時期や時期や年齢に関係なくキャリアに活かすための教育を受けること」とされています。図を用いて取りまとめてみましょう。
リカレント教育 | 生涯学習 | |
目的 | 仕事のため | 人生・暮らしのため |
習得内容について | ・仕事に活かせる内容の学習 ・趣味は含まない |
・趣味やボランティアについて学ぶ ・コミュニティ参加も含まれる ・仕事に就いての学びも含む |
期待されること | ・仕事上のスキルアップ ・キャリアアップ |
・社会や経済の発展 ・地域の活性化 ・高齢者の社会参加 ・児童の健全育成 など |
リカレント教育|メリット・デメリット
リカレント教育における、メリットとデメリットも確認しておきましょう。
個人として、企業として、それぞれにまとめていますので、下図をご覧ください。
個人 | 企業 | |
メリット | ・年収の増加が期待される ・キャリアアップ (専門的なスキルを活かせる) ・就労に繋がる |
・従業員がスキルをアップデートし続けてくれる ・従業員が長期的に活躍してくれる可能性がある |
デメリット | ・仕事を辞める必要が出てくる (無収入期間) ・費用がかかる ・時間がかかる |
・一時的な人材不足となる ・休職体制の整備 ・転職リスク |
参考:内閣府>平成30年度 年次経済財政報告より
個人としても企業としても、デメリットは一時的なもので長期的に見たメリットを獲得するためのプランと言えます。
リカレント教育を学ぶには?
リカレント教育を日本で学ぶためには、どうすればいいのでしょうか。
- 企業が独自の学び場や時間を設け、従業員に学習の場を提供するケース
- 大学などの教育機関と連携をとるケース
今後の「リカレント教育の普及」に伴い、拡大・拡充する可能性も大いにあるでしょう。
具体的な例として、次が既に拡充しています。ハローワークの職業訓練は、耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
- ハローワークを経由した職業訓練
- 大学の社会人通信教育課程・eラーニング
- 専門学校の夜間コース・通信コース
- 民間の資格学校
- MOOCs(※1)などのオンライン講座 など
補足(※1)MOOCsとは、インターネットで、世界中の誰もがアクセスできる大規模公開オンライン講義です。MOOCsの中にはハーバード、MIT、スタンフォード等の世界のトップ大学が授業を提供しいるものも存在します。日本語で受けられるJMOOCsもあります。
リカレント教育|学べる大学
リカレント教育を実施している、代表的な大学を紹介します。
既に就労している社会人向けに、リカレント教育のカリキュラムを取り入れています。
- 早稲田大学
- 日本女子大学
- 明治大学
- 大阪府立大学
- 筑波大学
- 放送大学
会社を辞めずに受講も出来るように、夜間や休日の講義を設けたり、費用も10万円程度~数十万円ほどで収まる場合が多いようです。通年でのカリキュラムが組まれていますので、じっくりと学ぶことが出来ることとなるでしょう。また、講義内容も専門分野に特化しており、選択制となっています。
例えば、次のような科目があるようです。
- ビジネスコニュニケーション
- 金融マーケティング
- スポーツ健康システム など
「リカレント教育を受ける場合」国からの活用できる補助金と制度
最後に、国からの「補助金」と「制度」を紹介します。
- 教育訓練給付金制度
- 人材開発支援助成金 教育訓練休暇付与コース
- 履修証明制度
①教育訓練給付制度
リカレント教育を受ける場合「教育訓練給付金制度」が活用できます。
リカレント教育を受けたいとは思うものの、費用面が課題となり諦める人も多いのではないでしょうか。しかし現在、政府が国をあげて「キャリアアップの支援」しているために、リカレント教育(一部の対象講座)も費用の一部を教育訓練給付金から助成を受けることが出来るようになりました。
適用条件は、定期間雇用保険に加入している労働者であれば、一定の条件を満たすことで「リカレント教育の受講料」の一部(最大70%)を国から支給されます。
受講適用や給付料について詳しくは、ハローワークまたは、受講機関にお問い合わせ下さい。
人材開発支援助成金 教育訓練休暇付与コース
「人材開発支援助成金 教育訓練休暇付与コース」についても解説しておきます。これは、リカレント教育を社員に提供する場合の企業に対して助成されるものです。
リカレント教育を受ける社員への休職期間を設定する企業に対し「人材開発支援助成金 教育訓練休暇付与コース」が活用できます。
休職日数により「教育訓練休暇制度」と「長期教育訓練休暇制度」に分かれ助成金の額も変わります。参考までに、下図を添付しておきますのでご確認ください。
※1 有給による休暇取得に対する1人1日当たりの賃金助成額となり、最大150日分。
企業全体の雇用する被保険者数が100人未満の企業は1人、同100人以上の企業は2人を支給対象者数の上限とします。無給による長期教育訓練休暇の取得については賃金助成の対象となりません。
また、有給の教育訓練休暇を与えて、被保険者が専門実践教育訓練又は特定一般教育訓練(*)を自発的に受講する場合は、長期教育訓練休暇制度における賃金助成と特定訓練コース(労働生産性向上訓練)の賃金助成について、併給調整を要する場合があります。※2 「教育訓練休暇制度」の場合は制度導入・実施助成。
※3 当該休暇取得開始日が属する会計年度の前年度から3年後の会計年度の末日の翌日から5ヶ月以内に割増支給申請をした場合に、通常の支給額からの割増分を支給。
※4 当該制度導入後、最初に適用した被保険者の休暇取得開始日が属する会計年度の前年度から3年後の会計年度の末日の翌日から5ヶ月以内に割増支給申請をした場合に、通常の支給額からの割増分を支給。
参照:厚生労働省> 人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース)
「教育訓練休暇制度」と「長期教育訓練休暇制度」ともに、業種を問わず申請できるために、非常に人気がある助成金です。しかし、支給申請期間や制度導入、付与要件は非常に複雑で、管理案件も含めて各都道府県労働局へご確認ください。
履修証明制度
「履修証明制度」とは、教育機関(主に大学など)が開く「社会人向けプログラムの修了者」に対して、学校教育法に基づき履修証明書を交付する制度です。
履修証明書を交付されることで「専門分野の知識や技術に特化した、高いスキルを持った人材」だとアピールすることが出来ます。履歴書にも記載が可能となり、キャリアアップに繋がる制度とされています。
履修証明の要件については、以下をご確認ください。
対象 | 社会人(キャリアを積み上げることを前提とした人) |
受講内容 | その分野で活躍するための「知識」や「技術」といったスキルを習得 |
受講時間 | 120時間以上 |
履修証明書の発行 | 受講後 |
尚、単位や学位が授与とは異なります。
まとめ:【日本のリカレント教育】生涯学習のメリットや学べる大学|補助金制度について
- リカレント教育とは
- リカレント教育の概要|対象者・学べる内容・注目を集める背景
- リカレント教育のメリット・デメリット
- リカレント教育の学び方と補助金と制度
今回は、リカレント教育について「概要」「メリット・デメリット」「学び方」「補助金と制度」を解説してきました。
人生100年時代と話題になり、つい「働く時間」「お金のこと」ばかりに着目してしまいがちですが、長い期間働くからこそ「スキルを高め、心地よく働くこと」が大切です。
心地よく働くとは、快適に働くことや、好きなことで収入を得ることと考えがちです。それも大切なことですが「自分のスキルが、誰かの役に立っている」といった感覚こそが、労働だけにとどまらず、生きる中での心地よさに繋がるような気がしています^^
おっしまーい!